であるから。
EL《エル》 DORADO《ドラドー》――それはついにインカ族が所在を秘しおおせてしまったところの、まさに伝説中の伝説であった。
かつて、西班牙《スペイン》植民史には幻の華《はな》となって咲き、南米エセクイボの渓谷にあるとのみ信じられて、マルチネツはじめ、数千の犠牲をのみ尽くした黄金都市がそれである。
だが、いったいベーリングは、なぜその夢想の都市に、千島ラショワ島を擬しているのであろうか。ああ、どうしてのこと、熱沙《ねっさ》の中から、所在を氷海の一孤島に移しているのであろうか。
私も、読み終わると同時に、しばらくの間は、熱気のほてりに茫然《ぼうぜん》となっている。
しかし、黄金郷《エルドラドー》の所在――そういう世紀的な謎《なぞ》をめぐって、あの、ラショワ島の白夜を悩まし続けた、血みどろの悲劇を思うと、なんだかこれを、実録として発表するのが惜しくなってきた。
そして、泡《あわ》よくば一編の小説として、これを世に問いたい誘惑に打ちかち兼ねてしまったのである。
緑毛の人魚
つい一刻ほど前には、渚《なぎさ》の岩の、どの谷どの峰にも、じめじめした、乳のよう
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