て、たてがみのような潮煙を立てた。その時、異様な予感にそそられて、フローラは頭をもたげ、部屋の濃い闇《やみ》の中をじっとのぞきはじめた。それは、嵐《あらし》の合間を縫って、どこからともなく響いてくる、漠然とした物音があったからだ。
そうして彼女は、その夜更けに、ふと慈悲太郎との部屋境にある、格ガラスを透かして、時折り青白いはためきをする、蝋燭《ろうそく》の炎を見つめているうちに、いきなり、激しい恐怖の情に圧倒されてしまった。
見ると、扉がいつの間に開かれたのであろうか、荒れ狂う大風に伴った雨の流れが、その格ガラスの上に、ドッと吹きつけたのである。と思うと、瞬間おどろと鳴り渡った響きの中から、見るも透《す》んだ蒼白《あおじろ》い腕が――しかも、指のひしゃげつぶれた、反り腕の父のそれが――フローラの眼をかすめて、スウッと横切ったのであった。
黄金郷《エルドラドー》の秘密
翌朝になると、果たして慈悲太郎は冷たい亡骸《なきがら》と変わり、胸には、横蔵と異ならない位置に、短剣が突き刺さっていた。
その日の午後、フローラは、しょんぼり岬《みさき》の鼻に立っていて、いまにも氷の下に包
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