じような混沌《こんとん》状態と同じような物狂わしさは、いっかな果てしもなく、ただただ彼女だけが、その真っただ中に、取り残されているのを知るのみであった。
すると突然、ひゅうひゅうというすさまじい声が、空から聞こえてきた。
彼女の相手となる、男という男に、あの世から投げる父の嫉妬《しっと》が、あまねく影を映すとすればいつか彼女に黴《かび》が生え、青臭い棺《ひつぎ》に入れられても、その墓標には、恋の思い出一つ印されないに相違ない。もう一度、そうだ……。もし慈悲太郎に、横蔵と同じ運命をたどらせるとすれば、もはや男と呼ばれて、彼女をおびやかす、忌まわしい対象が、この島にいなくなるのだ。
と思いなしか、前よりもいっそう狂い募る、波の響き、風の音の中から、彼女にそう警告したものがあった。
しかし、ここに奇異《ふしぎ》というのは、間もなく横蔵の場合と、符合したかのように、慈悲太郎が悪疫にたおされてしまったからである。
そして、季節も秋近く、そろそろ流氷のとどろきがしげくなったころ――、その日は、暮れるとともに、恐ろしい夜となって展開した。
一刻一刻と風は高まり、海は白い泡《あわ》をかぶっ
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