に映ったのが、銅々《あかあか》と光った、横蔵の半面と思いのほか、意外にも、奇怪を極めた絵となって飛びついてきたからだ。すでに、海底の藻屑《もくず》と消えたはずの父ステツレルの顔が、つぶれた左眼を暗くくぼませて、寒々とこちらを見返しているのだ。
その黄色い皮膚、薄汚い襞々《だんだら》は、まるで因果絵についた、折れ目のように薄気味悪く、フローラは全身の分泌物を絞り抜かれたような思いだった。それからフローラは、邪険に横蔵を追いやって、その折回廊を、慈悲太郎が通り過ごしたのも意識するではなく、ただただ父の名を呼び、いつまでも、しびれたように座っていた。
その一瞬の間に、彼女の眼は別人のように落ちくぼんでしまった。
鉄の輪が、いつもこめかみを締めつけているように感じ、舌は、熱病のような味覚を持っていた。しかし、そうしているうちに、ふと横蔵の迫り方を思うと、いつかチウメンで出会った、あの恐怖がしくしくと舞いもどってきた。
父の影を持つ男――それに、いつか身を任さねばならないとすれば、神かけても彼女は不倫から逃れねばならない。そう思うと、フローラはすっくと立ち上がって、一つの恐ろしい決意を胸
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