に固めたのである――あのいとわしい幻影を殺すために、まったく不思議な心理、信ぜられない潔癖のために、彼女は、横蔵に生存を拒まねばならないのだ。
「のうフローラ、姉の才量で、今日から城内に、グレプニツキーを入れることにした。そして、黄金郷の在所《ありか》を、じわじわ吐かせることに決めたのじゃ」
と言った横蔵の唇が、いつになく物懶《ものう》げであったように、それから数日後になると、果たしてステツレルの出現と合わしたかのごとく、城内には、悪疫《えやみ》の芽が萌《も》えはじめてきた。
それは壁という壁から立ち上がる、妖気《ようき》でもあるかのように、最初横蔵に発して、さしも頑強《がんきょう》な彼も、日に日に衰えていった。錐《きり》のような髯《ひげ》が、両|頬《ほお》を包んで、灰色がかった皮膚から、一日増しに弾力が失われていくのだ。
したがって、フローラの決意も、やがて下ろうとする自然の触手を思うと、いつか鈍りがちになるのも無理ではなかった。
ところが、それから一月後のある朝、思いがけなく横蔵が、胸に短剣を突き立てられ、うねくる血に彩られた、無残な姿を発見された。
その日は、垂れこめた
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