》の上に、見えない眼で、EL《エル》 DORADORA《ドラドーラ》――とまで書いたそうですが、それなり父の手を、かたく握りしめてあの世に旅立ってしまったのでした。
 その RA《ラ》 が、RASHAU《ラショワ》 島の最初の一つづりであることは、すでに疑うべくもありません。しかし、それを見て父はあまりの驚きに狂ってしまったのでしたが、グレプニツキーは翌年本土にもどって、その旨をカタリナ皇后《さま》に言上したそうです。けれども、奥方様、私は乗り込んだアレウート号の中で、ふたたび、あの獣物臭い恐怖を経験することになりました。
 それが、どうでございましたろうか、心臓を貫いて、硬《こわ》ばりまでした父が――しかも八尺もの地下に葬られたはずの父が、いつの間にか船に乗り込んでいて、私の前に、あの怖《おぞ》ましい姿を現わしたのですから、私は、土をかき分け、墓石を倒した血みどろの爪《つめ》を、はっきりと見たのでしたわ」

  恋愛三昧

「それが、乗り込んでから、十八日目の夜のことで、戸外の闇《やみ》には、恐ろしい嵐《あらし》が咆《ほ》え狂っておりました。冷たい風が、どこからとなく隙《すき》をくぐ
前へ 次へ
全58ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング