はそれには別に意見を吐かなかったが、再び屍体を見下ろして頭顱《あたま》に巻尺を当てた。
「熊城君、帽子の寸法《サイズ》で八|吋《インチ》に近い大頭だよ。六五糎もあるのだ。無論手近の役には立たんけれども、兎角数字と云うやつは、推論の行詰まりを救ってくれる事があるからね」
「そうかも知れない」熊城は珍らしく神妙な合槌を打った。
「場所もあろうに、頭の頂天《てっぺん》に孔を空けられて、それでいて抵抗も苦悶もした様子がないなんて――。こんな判らずずくめの事件には、ひょっとすると、極くつまらない所に解決点があるのかも判らない。時に君は、手口に何か特徴を発見したかね?」
「たった、これだけのものさ。――尖鋭な鏨様のものが兇器らしいが、それも強打したのではなく、割合|脆弱《ぜいじゃく》な縫合部を狙って、錐揉み状に押し込んだと云うだけだ。所が見た通り、それが即死に等しい効果を挙げているんだ」
意外な断定に、二人は思わずアッと叫んだが、法水は微笑《ほほえ》みながら註釈を加えた。
「その証拠には、尖鋭な武器で強打した場合だと、周囲に小片の骨折が起るし、創口《きずぐち》が可成り不規則な線で現われる。所が、
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