)その間、検事は日和下駄の歯跡の溝を計っていたが、
「どうも、体重の割に溝が深いと思うが」
「それは暗い中を歩いたからさ。明るい所と違って、兎角体重が掛り勝ちになるからね」と法水は検事の疑念に答えてから、何んと思ったか、巻尺を足跡の辺で縦にすると、それがコロコロ左手に転がって行く。彼はそれを無言の中に眺めていたが、やがて熊城に、「君は、殺人が一体何処で行われたと思うね」と訊ねた。
「歴然たるものじゃないか」熊城は異様な所作に続く法水の奇問に、眼をパチクリさせたが、「とにかく見た通りさ。被害者は日和を脱いで大石に上ってから、やんわり地上に下りたのだ。そして、雪駄を履いた犯人が、背後から兇行を行ったのだよ。然し、屍体の形状を見ると、無論それには、破天荒な機構《メカニズム》が潜んでいる事だと思うがね」
「機構《メカニズム》※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」検事は熊城らしくない用語に微笑みかけたが、「ウン、確かにある」と頷いて、「その一部が屍体の合掌さ。あれを見ると、絶命から強直迄の間に、犯人が余程複雑な動作をしたと見なけりゃならん。所が、そんな跡は何処にも見当たらないと来てるんだ」
法水
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