を保つ事が出来たのだ。おまけに、蝋受の皿がペッタリと冠《かぶ》さったので、流血が略々火山型に凝結してしまったと云う訳なんだよ。さてそれから、薬師堂の扉を開け放して提灯を点し、目撃者を作った事は云う迄もないが、久八が通り過ぎたのを見定めると、今度は胎龍の日和下駄を履いて、坐像の屍体を玄白堂に運び入れたのだ。つまり、支倉君が少し溝が深いと云ったのは、その時の足跡なので、帰りは裸足《はだし》で石の上から左壁近くに跳び、その足跡をすぐ、池溝の堰を開いて消したのだ。そうして厨川君は、犯行の全部を終ったのだよ」
「成程、それで提灯を灯した理由が判る」
「ウン、あれには、すんでの事で瞞される所だった。全く自然な陰蔽方法だからな」法水は擽《くすぐ》ったそうに苦笑した。
「何しろ、血に染んだ個所と云うのが、鉄芯から蝋受皿の内側にかけてだけだろう。だから、その部分を洗ったにした所で、後で蝋燭を鉄芯の間際迄灯すから、尖鋭な槍先から下の不自然な部分が流れる蝋ですっかり隠されてしまう。併し、それを吊して人目に曝したのは、狡猾な擾乱手段に過ぎないのだ」
「すると、堰を切ったのも厨川だろう」
「そうだ。久八が堂の前
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