ったね?」熊城は溜めていた息をフウッと吐き出して、汗を拭った。
「その一つは、厨川君は線香花火と月光像との間に、何か仕切を置くのを忘れたからだよ。線香花火は硝石と鉄粉と松煙の混合物だからね。そして、鉄粉は松葉火になって空気中に出ると、酸化して角が丸くなってしまうのだ。それから、もう一つは数字的な符合なんだよ。と云うのは、提灯の口金と胎龍の頭蓋との寸法《サイズ》であって、刺傷痕と鉄芯が、双方の円芯に当っているからだ。勿論よく剃りの当った僧侶の頭蓋《あたま》なら、縫合部の位置に略々見当が附くだろうからね。そして、其処に偶然の一致があるのを、厨川君は発見したのだ。すると、それから考えると同じ事だけれども、喬村君と空闥の体躯が被害者そっくりだったと云う事や、また、柳江と伎芸天女の相似なども、たしかにあれは、自然の悪性な戯れに違いないのだよ。勿論玄白堂の板壁にある三つの孔なんぞも、その念入りの一つに過ぎないのだがね」
「成程」熊城は頷いて、眼で先を促した。
「で、此処迄判れば、屍体が絶命前の強直状態をその儘持続したと云う事が確実になる。事実、珠数の緊縛を解いて重心を定めたので、恰度祈祷中宛然の姿
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