を通ると、すぐに灯を消して池の畔へ出たのだ。それは、喬村君と柳江が毎夜会うのを知っていたので、それを利用して、僕等の視線を喬村君に向けようとしたからだ。所で厨川君は、最初に久八の犬の鎖を解いて池畔で放し、その鳴声に依って久八を誘き出してから、今度もまた向う岸で、線香花火を使ったのだよ。前以って血粉を混ぜたのを一本作って置いて、それに点火したのだが、血粉が溶けるので松葉火が出ず、一塊の火団となって池の中へ落ちたのだ。つまり、それが喫い終った莨を捨てたと見た、あの目撃談の正体なんだよ。しかしその時、厨川君は見当を付けて昼間のうち一本水浸しにして置いた、タパヨス木精蓮《レセタばす》の中へ落したのだよ。そうすると、血の臭気で蛭が集まって来る。そこへ、堰を開いて水面を低下したので、朝になって、残っていた蛭が花弁に包まれてしまったのだ。玄白堂内の足跡を消す以外に、厨川君には斯う云う陰険策があったのさ。多分僕を目標に計画した事なんだろうが、事実僕も、喬村君の影をどうしても払い切れなかったのだ」と云ってから、朔郎に向き直って、「然し、君は何故に喬村君を陥れようとしたのだね。それに胎龍を殺害した動機と云
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