分程の間だけ、像の後頭部に光が落ちる。それを知ったので、像に後光が現われた時刻を調べてみると、二回とも、節穴から月光が洩れる刻限に当っているらしい。それで、後光の全貌が判ったのだよ。つまり、最初の夜は、臭化ラジウムと硫化亜鉛とで作った発光塗料を、予《あらかじ》め黒い布帽子に円く点在させておいて、それを像の後頭部に冠せ、その布帽子に長い紐をつけて、紐の末端を敷石の上に置いた鋲に結び付けて置いたのだ。そして、刻限を計って慈昶を誘い出したのだが、月の光が頭上に落ちている間はそれに遮られていたけれども、月の位置が動いて堂が真暗になると、発光塗料が螢光色の光円を作って、凄愴な擬似後光を発光させたのだよ。勿論慈昶は仰天して逃げ出したのだろうが、君は鋲を下駄で踏んでそれを引き摺って駈けながら、途中で取り外して懐中に入れたのだろう。どうだね、厨川君。――それから、兇行の夜になると、今度は胎龍の面前で後光を発光させたのだ、然しその時の順序は、前の二回とは反対で、擬似後光を胎龍の眼に触れるとすぐ、月光で消す様にしたのだったね――確か※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
曝露された犯罪者特有の醜い表情は、
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