遂の間に消え失せていて、朔郎の顔は白蝋の仮面さながらだった。
「だが、一体胎龍は、何処でどんな兇器で殺されたのだね? それから、屍体の状態とあの不可解極まる表情は? それ以外にも、此の事件には、数々の謎が含まれているのだが……?」と熊城は、一息入れる隙を法水に与えなかった。
「ウン」悠《ゆっ》たりと唇を濡して、法水の舌が再び動き始めた。
「では、厨川君の計画を最初から述べる事にするから、その中に現われて来るものを、よく注意していてくれ給え。所で此の事件は、三月晦日の天人像の怪異で幕が上るのだが、それ以前に、胎龍の語る夢を精神分析的に解釈して、最初の機会が熟するのを待っていた。そして案の状、投げた骰子《さい》に目が出たので、次第に、胎龍は、一昨日《おととい》僕が話した夢判断通りの径路を辿って、一路衰滅の道へ堕ちて行ったのだ。――つまり厨川君は、犯罪としては実に破天荒な、大脳を侵害する組織を作り上げたのだよ。また、胎龍から意識を奪って全く無抵抗にした原因と云うのも、実はそこにある事なんだ」
「………」朔郎は機械人形の様に頷いた。
「そして厨川君は、それ以外の三月余りの間を、絶えず夢を語らせ
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