の細い可熔線《フューズ》はその場で切れてしまって、残った太目の一本だけが、二回目の時に、ボーンと一つ鳴ったって訳さ」
「いや、実に奇抜な趣向です。しかし、一体それは、貴方の独創なのですか」朔郎は膏汗をタラタラ流し、辛くも椅子の背で倒れるのを支えていたが、強いて嘲ける様な表情を作った。
「いや、君の鳥渡した手脱りからだよ。大体、弾条《ゼンマイ》が全部《すっかり》弛み切れているなんて、使っている蓄音機には絶対にあり得る状態じゃない。君は兇行後に凡ゆるものを原形に戻して置いた許りでなく、故意に自分の口から出さず他人に云わせて、不在証明《アリバイ》を極めて自然な様に見せかけ様としたのだ。だが、僅《たっ》た一つ、弾条《ゼンマイ》を捲いて置くのを忘れたんだよ。僕はあの蜘蛛糸を見た時、此れなら不在証明を作れると直感したのだ。だから、それで不在証明が証明される様だったら、君が犯人だと信じていたのだよ」
「すると、もうそれだけですか?」朔郎は思わず絶望的にのけぞったが、なおも必死の気配を見せた。
「まだある。今度は像の後光だよ。然し、実に巧く月の光線を利用したもんだなア。月夜には頭上にある節穴から、約五
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