さまに中央の回転軸に縛り付ける。すると、発音器《サウンドボックス》が俯向くから恰度卍の一本と同じ形になるのだが、それが済むと、愈停止器を動かして回転を始めさせたのだ。勿論それだけでは、糸が盤の回転を許さないのだが、そのうち八時三十分を少し過ぎると、両針に付けられた剃刀の刃が合うから、糸がプツリと切断される。そうして、回転が始まると、発音器《サウンドボックス》の針受が上の蜘蛛糸を弾いて、あの時計に似た沈んだ音響を立てたのだよ。つまり、最初の回転で八つ[#「八つ」は底本では「六つ」]、二回目で一つ――それが三十分の報時に当ると云う訳だが、その二回で弾条《ゼンマイ》の命脈が尽きてしまったのだ」
「どうかしてますね貴方は※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」朔郎は突然引っ痙れた声で笑った。「あんな絹紐から、どうしてそんな音が出ましょう?」
「成程、十本の中で両端の二本宛は単純な絹紐だよ。所が、中の八本は本物の小道具なんだ。土蜘蛛の糸にはもう二十年此の方、電気用の可熔線《フューズ》を芯にして使っている。しかも、その中の一本には極く太目のものを君は芯にしているんだ。だから、最初八つ打ったのだが、七本
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