て置くが、それは、性的機能の抑欝から起る麻痺性の疲労なんだ。その証拠が、面皰《にきび》云々の夢で、それが充たされない性慾に対する願望だと云うのは、面皰を潰した痕が女性性器の象徴《シンボル》だからだよ。つまり、それに依って、柳江の方で、胎龍から遠ざかって行ったと云う事が判るだろう。それから、次の木の錠前だが、錠前もやはり女性性器を現わしている。然し、木と云う言葉は、結局木像を意味しているのではないだろうか※[#感嘆符疑問符、1−8−78] すると、像の不思議な後光に打衝《ぶつか》って、初老期の禁ぜられた性的願望が、如何なる症状に転化して行ったか――その行程《プロセス》が明瞭になる。それは、彫像愛好症《ピグマリオニズムス》なんだよ。そうして、胎龍は精神の転落を続けて行ったのだが、勿論それに伴って、性的機能が衰滅する事は云う迄もない。で、その症状を自覚したのが一転機となって、その後の事が最後の夢なのだ。胎龍が自分の一つしかない眼を刳り抜いて天人像に捧げると云うのは、沙門の身であられもない尊像冒涜の罪業を冒した懲罰として、仏の断罪を願望としたからなんだ。ねえ、ジャネーが云ってるだろう。肉体にう
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