と同量以上――即ち朔郎か或は二人分以上の重量でなければならないのだ」
 二人分――それは犯人と屍体とを意味する。果して一人か二人か? そして、此の室で何事が行われたのだろう? それとも眼膜剥落は、法水の推測とは全然異なる経路に於いて、起されたのではないだろうか? と様々な疑問が、宛ら窒息させん許りの迫力で押し被さって来る。が、その空気は間もなく空闥に依って破られた。この老達な説教師は、摩訶不思議な花火を携えて登場したのであった。
 空闥と云う五十恰好の僧侶には、被害者と略々《ほぼ》同型の体躯が注目された。僧侶特有の妙にヌラめいた、それでいて何処か図太そうな柔軟《ものやわらか》さで、巧みな弁舌を弄んで行くけれども、容貌は羅漢宛らの醜怪な相で、しかも人参色の皮膚をしている――その対照が非度く不気味なのだった。彼は問に応じて、――夕食後の七時半から八時頃迄の間は、檀家葛城家の使者と会談し、それから同家に赴いて枕経を上げ、十時過ぎ帰宅したと云う旨を述べ終ると、俄かに襟を正し威圧せん許りな語気になって、この事件の鍵は、俗人には見えぬ法《のり》の不思議にある――と云い出した。そして、眼を瞑じ珠数を
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