゚っていた理由だよ」
 そうして余す所なく、犯行の説明を終えると、法水は衣袋《ポケット》から、一葉の紙片を取り出した。その刹那、彼の眼には、何かしら熱っぽい輝きが加わって、その紙片ごと、指先がわなわなと顫えた。
 然し、その一片には、故国の空に憧がれる、孔雀の不思議な心理が語られてあった。

 ――もう幕にも間がないままに、鉛筆で走り書きに記す事に致します。貴方はいま、次の幕には必ず風間を指摘すると仰言いましたわね。それで、何もかも終ってしまったのに気が付いたのでした。何故かと申せば、次の幕に現われるものと云えば、風間を入れたオフェリヤの棺以外に何がありましょう。私はもう、最後の覚悟をかためねばならなくなりました。ですけど、私は何故風間を殺し、幡江にも手を加えねばならなかったのでしょうか。
 と申しますのは、外でも御座いませんが、あの風間と云う男は、まこと真実の父ではないので御座います。当時私の母は、父に先立たれて、私を胎内に抱えたまま、路傍を彷徨《さまよ》って居りました。そこを、風間に救われたのですが、多分そうした、風間の強い印象が、胎内の私に影響したからでしょう。私の髪や皮膚の色に
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