ゥら、時針の変化で、幡江を遮ったのでした」
 法水の、凄まじい推理力から迸《ほとばし》り出る力に圧せられて、一座の者は化石したように硬くなってしまった。検事は胸苦しくなった息をフウッと吐き出して、
「それでは、オフェリヤの棺槨《かん》の外から、君が風間九十郎を透視した理由を聴こう。僕は、それを不思議現象だけで葬りたくはないのだよ」
「それは支倉君、実は斯うなのだ。孔雀の瞬きが、ある一つの微妙な言葉となって、僕に伝えてくれたのだよ。よく会話中に見る事だが、酸いような感覚を覚えると、僕等はどっちかの眼を閉じるものなのだ。所が、オフェリヤの棺と――僕が云った時に、孔雀は無意識にそれを行った。それで僕は、もしかしたらその感覚に、孔雀は死臭を経験しているではないかと考えたのだ。また、その神経現象は、奈落――と云った時の淡路君にも現われたけれども、それは却って、無辜《むこ》を証明するものになってしまった。と云うのは、あの当時は、奈落にニスの臭いが罩っていたので、酸味の表出で、淡路君が余儀ない偽りを吐いたと云う事が判ったのだよ」
「それでは、一体、九十郎は何時誰に殺されたのだね」
 と今度は、熊城が
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