bまで痛みを感じたと云いました。然し、それがもし真実だとすれば、感動の伝導法則が根本から覆《くつが》えされてしまわねばなりません。勿論、痛みをその部分以外にも覚えると云う事は、日常|屡《しばしば》経験される事でしょう。然し、それには退歩運動と云って、多くの場合、逃走しようとする方向に伝えられるのです。ですから、当然扉が右手にあるとすれば、何故孔雀が嘘を吐いたか、訝かしく思われねばなりますまい。所がその後になって、孔雀はうっかりそれを裏書してしまったのです。と云うのは、御承知の通り、幡江が九十郎と推した影を追い詰めて行くと、不図側の時計が、九時を指しているのに気が付いたのです。所が、その真実の時刻は八時三十分だったのですから、恰度その進ませ方が、十五分の直角を逆かさに倒したようになりましょう。私はそれに気附いたので、試みに円錐形と云う、図形の観念を孔雀に与えてみました。そうして、その後に、九十郎に逢った時刻を訊ねると、前の一回は三時前後、二度目は六時十五分だったと云って、明らかにその直角を、追うている事が曝露されたのです。つまり、淡路君は忠実に勤めを果したので、孔雀は王の衣裳を脱ぎ捨てて
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