驕B
 着衣も、腐汁に浸みた所だけは、腐ってボロボロになり、そこから黄ばんだ、雁皮みたいな皮膚が[#「皮膚が」は底本では「皮腐が」]覗いている。眼窩には、…………………………溜っているだけで、黒いバサバサした髪が………………………跡には、肉の表面がドス黒い緑色に見える。そして、その上には、瘠せた蛔虫のような形、…………………………………………………。
 既に、風間九十郎の上には、見る影もない腐朽の印《しるし》がとどめられているのだった。
「こら坊主、香を焚け、香を……」
 墓穴の中から躍り出ると、法水は台本にもない台詞を叫んだ。そして観客に悪臭を覚られまいとした。
 然し、続いて今度は、満場を総立ちにさせたほどの出来事が起った。
 と云うのは、レイアティズがハムレットに争いを挑むところで、その役の小保内精一が長剣を抜いて突っ掛かって来ると、いきなり蹌踉いたものか、その剣光を目がけて、孔雀が飛び出したのであった。それはまったく、電光のような敏《す》ばやさで、ハッと感じた小保内も、剣を引く隙がなく、余勢が孔雀の心臓を貫いてしまった。
 その刹那、孔雀の全身が像のように静止して、何か言葉のよ
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