ノは、次の幕に使うオフェリヤの棺などが置いてありましたね。僕はその棺に、舞台の上から風間を指摘して、抛り込んでやりますよ」
次の場面「墓場」の幕が上ると、書割は一面に、灰色がかった丘である。雲は低く垂れ、風の唸りが聴こえて、その荒凉たる風物の中を、ハムレットがホレイショを伴って登場する。
やがてハムレットが、オフェリヤの棺を埋めた、墓穴の中に飛び下りると、その瞬間、王妃の暁子が絹を裂くような悲鳴を上げた。何故なら、その重た気な棺の蓋を、法水が両手に抱えてもたげ始めたからである。
所がその中には、重錘《おもり》と詰め物が詰まっていると思いのほか、蓋の開きにつれて得も云われぬ悪臭が立ち上って来る。そして、全く明け切られたとき、一同の眼は暗さに馴れるまで、凝《じっ》と大きく見開かれていた。すると、その薄闇の中から次第に輪廓を現わして、やがて一同の眼に、飛び付いて来たものがあった。
そこには一人の、腐爛した男の屍体が、横たわっていたのである。
「ああ、風間だ。風間が……」
暁子は、地底から湧き出たような声で叫んだ。
意外にもそれは、幡江の下手人と目されている、風間九十郎だったのであ
前へ
次へ
全66ページ中54ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング