驍ニ云うじゃないか。所が、その病源と云うのが、有名なツェルネル錯視なんだよ。現に、桟敷の円柱を見給え。横につけられた溝が、上から斜めに捲かれていて、それが一本置きに向き合っているだろう。だから、花弁が散って来て、その反映がチラチラ明滅すると、柱の平行線が、かわるがわる傾《かし》いで行くように見えるのだ。確か、三十年程前ライプチッヒ劇場にも、略々《ほぼ》それに似た、現象が起ったとか云うそうなんだよ」
その間他の四人は、生気のない脱殻のように茫然としていた。まさに、変異の極みとのみ思い込んでいた劇場の震動も、蓋を割ってみれば他愛もなく、五千人の眼の中に、追い込まれてしまったではないか。
暁子は、指を神経的に絡ませて云った。
「ですけど、風間の方は一体どうなるんでしょう。なるほど、そう云う仮説は、貴方がたには是非必要でしょうけれども、私達には、風間の身体一つさえあればいいのですからね」
「それは次の幕に……」
法水は確信を仄めかして、立ち上った。
「実は、風間が奏楽所を利用したのを知って、僕はその場所に最短線を引いてみました。するとそれに当ったのが、道具置場じゃありませんか。たしか彼処
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