、な引っ痙れが、ひくひく頬の上で顫えていた。そして、唇の両端から、スウッと血の滴りが糸を引くと、何やら模索しているようだった眼が一点に停まり、やがて孔雀は、棒のように仆れてしまった。
その同時に起った二つの出来事に依って、事件の帰趨は、略々《ほゞ》判然と意識されたけれども、果してそれが、真実であるかどうか迷わなければならなかった。
然し、その翌夜になると、法水は劇場に一同を集め、事件の真相を発表した。淡い散光《ライム》の下で昨夜通りの書割の前で、法水はあの妖冶《ようや》極まりない野獣――陶孔雀の犯罪顛末を語り始めたのであった。
「最初に順序として、僕はこの事件に現われた、風間の影を消して行きたいと思うのです。勿論あの手紙は偽造であり、淡路君の経験も孔雀の陳述も、みな、供述の微妙な心理から生まれ出たものに相違ありません。然し、幡江が淡路君の亡霊姿を見て、それを九十郎と信じたのは、まさに偽りではない。が、さりとてまた実相でもなく、実は幡江の錯覚が、起した幻に過ぎないのです。と云うのは心理学上の術語で仮現運動と云って、十時形に小さい円を当てて、その中心に符合させる。そして、その二つを、か
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