ヘ別の事を考えていたらしく、いきなり検事を振り向いて、
「ねえ支倉君、君が知ろうと欲している、心理上の論理だが、一つ僕は、その確固たるものを握っている。だが、九十郎と幡江は、おなじ同肉同血の親子じゃないか。その中で、たとえどのような動機があるにしてもだ。ああも容易《たやす》く、自然の根や情愛が、運び去られてしまうものだろうか……」
 と暫く莨を持ったまま、ポツネンとしていたが、その時|喚《よ》ばれた、ルッドイッヒ・ロンネが入って来た。
 ロンネは鳥渡見ただけでは、三十前後にしか見えないけれども、彼は四十を幾つか越えていて冷たい片意地らしい、尖《とんが》った鼻をした男だった。そして、入るとすぐ、故意《わざ》とらしい素振りをして、
「法水さん、貴方ほどの方が、不在証明《アリバイ》なんて云う、運命的な代物を信じようとはなさいますまいね。僕はこの通り、不在証明もなければ、空寝入りしようともしませんよ」
「いや、運命的なのは、オフェリヤ狂乱そのものじゃありませんか」
 法水は甲を顎にかって、突飛《とっぴ》な譬喩めいたものを口にした。
「実は、君に聴こうと思って、待ち兼ねていたのですが、たしかこの
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