hックス》を感じているんですよ。あの真に迫った殺し場を、隠そうとしたものが、却って……」
「じゃ、私が犯人だって云うんですの」
孔雀は眼をクリクリさせたがパッと口を開いて、真赤な天鵞絨《びろうど》のような舌をペロリと出した。
「サア見て頂戴。キプルスでは口に入れた穀粒に、唾のついていない時には、その人間が犯人なんですってね。たとえ、あの時、雪のように降って来る花弁が、私の身体を隠し了せたにしてもだわ。どうして、あの短い間に、奈落まで往復出来るでしょうか。ああ私、ほんとうは隠し通そうとしたのでしたけど、思い切って云ってしまいますわ。実は、父を見たのです。見たどころかいきなり後から脊を打たれて……」
「なに、脊を打たれて……」
熊城は莨《たばこ》を捨てて、思わず叫んだ。孔雀は左眼をパチリと神経的に瞬いて、
「よく、オフェリヤの棺と間違えますが、衣裳部屋にある櫃の中から、もう一着、亡霊の衣裳を取り出して来いと云われました。私は初日から、雑夫の中に父が混っているのを知っていたのです。だって、喰べ物を口にするとき、辺を見廻わすなんて、誰が父以外にあるもんですか。それで、私は最初断りましたの。
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