oで、もともとは、クローディアスにとついだ母に、嫉妬を感じたからなんですって。ねえ如何《どう》、それがもしかしたら、この事件永生の秘鑰《ひやく》かも知れませんわ。それに、もし私だったら――もし柱を震わすような、魔法が出来るんでしたら、多分法水さんにああ云う手紙を送ったでしょうからね。父をいくら捜したって、見付からないのが当然ですわ。それに、めいめいあの当時の不在証明《アリバイ》が判ったそうじゃありませんか。小保内さんにも母にもあるんですってね。すると、ロンネと淡路はどうなんですの。ですから、淡路さんにお聴きなさいってば。そうしたらきっと、二人一役の夢が醒めるにきまってますわ。それから、父はあの夜、もう二度と帰らないと云いました。私は悲しくなって、父の胸に抱きついて、キュッとしめつけてみましたが、やはり同じ事を云って、それなり劇場の前で、別れたのが最後でした」
 と孔雀は、捲毛《まつげ》の先についていた金雀枝の花弁を湿した口に噛ませて、じっと押し黙ってしまった。その花を、法水がスイと引き抜いて、
「たしかこの花降しは、警察の注意で、今夜からしたのでしたね。だが、これに僕は、妙な逆説《パラ
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