スのだったけれども、合憎《あいにく》二人とも、開閉《スイッチ》室に入っていたので、その隙に何者が入り来ったものか、知る由もなかった。
然し、調査は簡単に終って、三人は法水の楽屋に引き上げた。
「とにかく、犯人が未知のものでないだけでも、助かると思うよ」
検事は椅子にかけると、すぐさま法水を振り向いて云った。
「つまり、この事件の謎と云うのは、却って犯罪現象にはない。むしろ、風間の心理の方に、あるのじゃないかね。真先に、殺すに事かき自分の愛児を殺すなんて、どうも風間の精神は、常態でないような気がする」
「うん」熊城は、簡単に合槌を打った。
が、法水は椅子から腰をずらして、むしろ驚いたように、相手を瞶めはじめた。
「なるほど支倉《はぜくら》君、君と云う法律の化物には、韻文の必要はないだろう。然し、さっきの告白悲劇はどうするんだい。あの悲痛極まる黙劇《パントマイム》の中で、幡江が父に、何を訴えたかと思うね」
「なに、告白悲劇……とにかく、冗談は止めにして貰おう」
と棘々《とげとげ》しい語気で、熊城が遮った。
「どうして冗談なもんか。現に前の幕で、オフェリヤは一々花を取り違えたじゃない
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