ニ色附いている。それが、この惨状全体を、極めて華やかなものにしていたのである。
「熊城君、君は忘れやしまいね。風間九十郎の挑戦状の中に、|来たれ、列柱を震い動かさん《ヘイル・クウェーク・スタイルズ》――とあったのを。それが、とうとう実現されてしまったのだよ」
検事は、風間の魔術に酔わされて、声にも眼にも節度を失っていた。
「うん、地震でもないのに、この大建築を玩具《おもちゃ》のように揺り動かすなんて、九十郎の不思議な力は底知れないと思うよ。だが、奈落とはよく云ったものさ」
熊城は屍体から顔を離して、プウッと烟を吐いた。
「この事件でも、舞台の床一重が、天国と地獄の境いじゃないか。サア法水君、奈落へ下りるとしようか」
いずれにしても惨劇が奈落に於いて行われた事は明らかなので、舞台の上は、事件とは何んの関係もないのだった。それから三人は、煤《すす》け切った陰惨な奈落に下りて行ったが、そこで凡ての局状が明白にされた。
が、それに先立って、一ことオフェリヤを運んで行く、小川の機械装置に触れて置かねばならぬかと思う。
それは、前後二つの切り穴を利用して、間に溝を作り、その中で、調帯《ベ
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