烽フが、あるかに思われた。
続いて舞台が廻ると、そこはエルシノアの郊外。いよいよ女ホレイショが、オフェリヤを小川の中に導く、殺し場になった。
そこは、乳色をした小川の流れが、書割一体を蛇のようにのたくっていて、中央には、金雀枝《えにしだ》の大樹があり、その側《かたわら》を、淡藍色のテープで作られている、小川の仕掛が流れていた。その詩的な画幅が夢のような影を拡げて、それを観客席に押し出して行くのだった。
然し、その熟《う》れ爛れた仲春の形容は、一方に於いては、孔雀の肢体そのものだった。
孔雀は丈《せい》高く、全身がふっくらした肉で包まれていて、その眼にも脣にも、匂いだけで人の心を毒すような、烈《はげ》しいものがあった。得も云われぬ微妙な線が、肩から腰にかけ波打っていて、孔雀は肥った胸を拡げ、逞ましいしっかりした肉付の腰を張って、夢幻の寵妃を、その人であるかの如く、演じて行くのである。そしてこの、男のような声を出す女優が、まだ十七に過ぎないのを知ったら、誰しも、その異常な成熟には怖しさを覚えるであろう。
さて演技が殺し場まで進むと、狂いのはかなさにオフェリヤは、ホレイショに導かれ
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