黷スためでもあろうか。花渡しの場になると、彼女自身が、或はそうなったのではないかと思われたほどに、狂いの迫力が法水を驚かせてしまった。
 そして、一人一人に渡す花にてんで違ったものを持ち出したのを見て、三人は秘かに顔を見合わせたのだった。

(オフェリヤの台詞《せりふ》)「さあ連理草《スウィート・ピイ》(レイアティズに)、別れってこと、それから三色菫《パンジイ》、これは物思いの花よ。あなたには茴香《ういきょう》(王に)それから小田巻。あなたには芸香《ヘルウンダ》(王妃に)、私にも少しとって置こう。これね、安息日の祈草と云うのよ。それから、あの方には、雛菊を上げましょう。ああ、この迷迭香《ローズ・メリー》でもフルール・ドウ・ルシイ――いいえ|百合の花《フルール・ド・ルス》でも、どっちでもいいのだけれどきっと凋《しぼ》んでしまうにきまってますわ、父の没《な》くなりました時、それは立派な最期でしたけど」

 と、弥生の春の花薔薇、いとしのオフェリヤは、そうして残りの花を、舞台の縁にふり撒くのだった。
 がその時、幡江は暫く前方の空間を瞶めていて、そこに何やら霧に包まれながら遠退いて行くような
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