いまだ大して卵巣が発達していないものである上に、加工が上手《じょうず》であるから、肌がなめらかで艶《つや》々とし、質に軽い脂肪を含んでいて、齒に絡まるほどのねばりを持っている。台湾産のものは、それより少し卵の粒が大きいが、秋田産になると粒の大きさが鱈子《たらこ》ほどになっていて、舌ざわりがざらざらしている。そして、加工が上手でないから、艶の上がりがまことに鈍い。

 さて、鰡は一体どこへ卵を産みに行くかという問題である。それはまだ学界でも分かっていないらしい。しかしながら、産卵場を求めて長い旅行をする途中だけは、昔から分かっているのである。
 その旅行の途中というのが、九州の五島沖、台湾海峡、秋田地先の日本海である。
 五島沖を通過する子持ち鰡の大群は、日本海や北支那海の方から集まってきて、太平洋の方へ行くのであろうといわれている。台湾海峡を通過するのは、中支方面の広い海に数多く棲んでいる鰡が、大群をなしてバシー海峡をへて南太平洋の方へ行くのではないかといわれているし、秋田県地先を通るのは日本海の奥や、オホーツク海の方から、くるらしいというのだ。
 してみると、太平洋の沿岸方面を通過す
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