蜻蛉返り
佐藤垢石
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)惣太鰹《そうだがつお》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)姫|柚子《ゆず》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いな[#「いな」に傍点]鮨
−−
私は、呑んべえであるから、酒の肴にはいつも苦労する。うるか、惣太鰹《そうだがつお》の腸の叩き。まぐろのいすご、鱸の腹膜《ふくまく》、このわた、からすみ、蜂の子、鮭の生卵、鰡《ぼら》の臍《へそ》、岩魚《いわな》の胃袋、河豚《ふぐ》の白精《はくせい》など、舌に溶け込むようなおいしい肴の味を想い出しては、小盃の縁をなめるのである。
そのうちでも、からすみは大好物のうちに属する。長崎からきた上ものならば、もう一本といって女房にせがみ、それでは養生になりますまい、と、たしなめられることさえある。しかしながら愛好する肴を舌にのせたとき、陶然とした気持ちは、なにごとにも替え難い。
からすみは、鰡の卵から製造するのであるのは、誰も知っている。卵の方は、あれほど嗜酒の徒から賞味されるにも拘わらず、親の鰡の方は、なんであんなにも
次へ
全8ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング