き、醤油のなかへ橙酢《とうす》か姫|柚子《ゆず》の一滴を落とせば、素晴らしく味が結構となるのだ。また一夜、一塩に漬けて置いた鰡を、翌日風干しに干して、焼いて食べると、甚だいける。まず、鰡を腹の方から開いて、骨付きのまま塩水に漬け、翌朝塩水からあげて一旦真水で洗い、これを干すと美しい艶に干しあがるのだ。
九州では、小鰡《いな》を塩漬けにし、さらに押し酢にして、鮨に作ってこれをいな[#「いな」に傍点]鮨と唱えているが、これは京都の鯖鮨《さばずし》に似て、随分おいしく食べられる。そんなわけで、まず鰡のからだから、臭みを除き去れば、どのように料理しても、おいしく食べられると思う。
からすみは、九州の五島付近で漁《と》れた鰡の腹のなかから、卵だけを抜き去ってこれを長崎で加工したものが、一等品と称されている。二等品は、台湾海峡でとれたもの、三等品は秋田県地先の日本海でとれたものである。からすみを作るには、加工の方法に秘訣があり、それによって品質の高下を生ずるものらしいが、最も大切であるのは、卵が若いものであるか既に熟しきったものであるかによって差が生ずるのである。
一等品である長崎ものは、若
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