魚もはや[#「はや」に傍点]も、その産卵場の砂をはねのけて卵を盗み食うのである。
こんなわけで、秋がきたころ鱒の餌を用いると、山女魚もはや[#「はや」に傍点]も素敵によく釣れた。
私は、水戸に遊び住んでいたころ、漬物屋の店頭に、塩漬けの鱒の卵の入った樽を発見した。つまりイクラである。そのとき、ふと鱒の卵で山女魚とはや[#「はや」に傍点]を釣った故郷の渓流を想いだしたのである。那珂川にいるはや[#「はや」に傍点]も、鱒の卵を知らぬことはあるまいと考えたのである。
試みに、漬物屋のイクラを那珂川へ持っていって、はや釣りをやったところが、盛んに釣れたのである。その後、天然鱒が遡らない東海道地方の渓流へ赴いて、イクラを餌にしたところ、山女魚が素晴らしく釣れた。これは、鱒の卵と、山女魚の卵と同じ質のものであろうからと思う。
山女魚は、自分たち仲間が、産卵をはじめると、やはり鱒が産卵場についた場合と同じように、その卵を盗み食うのである。だから、全国いずれの川へ臨んでもイクラで山女魚が釣れるのに、不思議はないのだ。
イクラを鈎《はり》にさすには、一粒|乃至《ないし》二粒でよろしい。数多くつ
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