鱒の卵
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)山女魚《やまめ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一粒|乃至《ないし》二粒
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)掘り[#「掘り」に傍点]
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秋がくると、山女魚《やまめ》は鱒《ます》の卵を争って食うのである。わが故郷、奥利根川へ注ぐ渓流には落ち葉を浮かせて流れる浅瀬に、鱒の産卵場を見ることができるのだ。これを、鱒が掘り[#「掘り」に傍点]についたという。
日本鱒というのか、天然鱒というのか、海から川へ遡ってくる鱒は、アメリカから移り殖えた虹鱒《にじます》とか川鱒《かわます》とか、北海道から内地へ移して人工で繁殖した鱒に比べると、比較にならないほど、姿も大きく味も上等である。奥利根川へは、大正十五年の春まで、下総《しもうさ》国の銚子河口の海から遡ってきた。
大正十五年春に、上越線岩本駅地先へ関東水力電気の堰堤ができあがると、もうそれからは全く日本鱒の姿が、岩本から上流へは姿を現わさぬことになった。これも私ら釣り人にはさびしい想い出である。
海の鱒は、
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