いれい》の情を添えてくれるのである。
三
午《ひる》すこしまわった頃、汲江の奥の高知の港へ着いた。森下雨村は、数日来坐骨神経痛に悩まされ、臥床しているというので、美しい森下夫人が可愛い十歳ばかりになる坊やと共に、私ら親子を波止場まで迎えにきてくれた。
雨村の邸は、高知から西方六里の佐川町にある。そこから、わざわざ夫の代わり、親の代わりとして私らを迎えてくれたのである。波止場の改札口に、佐藤垢石様と書いた半紙を、二尺ばかりの棒に吊るして、十歳ばかりになる少年が、あまたの旅人を品定めしているのを私らは行列の後ろの方からながめた。
雨村の病気は、予想したよりも早く快方に赴いた。佐川町から六、七里離れた仁淀川の中流にある謙井田の集落へ、雨村と私と伜と三人で、竿をかついで行ったのである。ここは、仁淀川の中流というけれど、左右から高い山と険しい崖が迫った峡谷である。流水には、家ほども大きい岩があちこちに点在して、水は激しては崩れ、崩れては泡となり、奔湍《はんたん》に続く奔湍が、川の姿を現わしている。
川底の玉石はなめらかに、水は清く、流れ速い。そして、ところどころの崖かげには、泡
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