と、がばと驚いて騒ぎはじめるものである。そこに、瀞場の友釣りの妙趣を感ずる。
 掛け鈎を丁寧に研いで、新しい囮に取り替えてから、再び竿を娘に渡した。やはり娘は、無心の姿で竿の方向は四十五度、目印は水面一寸の場所、この掟を固く守って、水際に立った。またすぐきた。
 今度も、私は娘から竿を取って、掛かり鮎を手網に入れた。こうして、僅かに一時間ばかりの間に、立派な鮎を娘は七、八尾掛けたのである。さきほどから、この瀞場で釣っている三、四人の釣り師があった。どうしたものか、その釣り師たちの鈎には一尾も掛からない。この瀞場には、数多い鮎がいる。ということは承知しているのであるけれど、瀞場の友釣りについて、あまり深い造詣を持たぬ人達かも知れない。
 その人達は、私ら父娘が、娘が忙しく釣り私が忙しく手網に入れる姿を注目していたが、とうとう三、四人の人々は竿を河原に置いて私らの近くへ集まり砂の上へ腰を降ろしてうずくまり、私ら父娘の釣りを観察しはじめた。
 疲れたので、一服していると、人々は私の傍らへきて、そのうちの一人が私に、あなたは垢石さんですかと問うのである。そうであると答えると、そうですか流石《さ
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