。であるから、強力の釣り師は六間以上の長竿、非力の者でも四間半から五間もの竿を握り、なおその上に激流の中へ、胸あたりまで立ち込んで釣る慣わしが、利根の上流にはある。それが、人々の慣習になって、立ち込まぬでもよいのに、水へ浸る癖を人々が持つに至ったのだ。
 私も、その一人であった。

   九

 もっぱら、足を濡らさぬ修練を積むことにした。東海道の汽車の鉄橋のしも手に、浅い瀞場がある。深い場所でも、浅い場所でも、瀞場で鮎を掛けるということは、一応の修業をつまぬとうまくは行かぬものだ。
 私は、この場所の条件についてはよく心得ており、既に二、三回友釣りを試みて成績をあげているのである。そこで、娘とならんで足を濡らさぬように水際に近い石の上から釣ることにした。
 娘は友釣りの竿を持つことはこの日がはじめてである。鮒釣りには数回の心得があるが鮎釣りはこれが入門だ。竿を持たせる前に、友釣りについての心得をさとした。お前は、きょうが入学日だ。鮎の習性や、囮鮎の泳がせ方、竿の長短に対する得失、糸の太さ細さ、錘《おもり》の有る無し、囮鮎の強弱、流れの速さ、水の深さ、底石の大小、水垢の乗り塩梅《あんば
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