い》、水の純度、天候、時間、季節、上流中流下流、他の釣り人が既に釣った後の釣り場であるかどうか、石垢についた鮎の歯跡《はみあと》、気温、瀞か瀬か、瀬頭か引きの光か、落ち込み、白泡の渦巻、石かげ、ザラ場、岩盤、出水前、出水後、瀬脇の釣り場、流心の釣り場、囮鮎の活《い》け方、風の日、雨の日など数え上げれば際限がないほど数多い。さまざまの条件をよく消化総合して、それを渾然《こんぜん》として頭に入れ、理屈にこだわらず、いろいろの場合に対する変化を身につけて鮎と水とに向かわねばならぬのであるけれど、その手ほどきからはじめたのでは、全く釣りにならぬ。
お前は自分を操《あやつり》人形と心得ておれ。[#「。」は底本では「。、」]そして万事、父の指図の通りに竿を操り、からだを動かせ。そこに私心があってはいけない。つまり、父の教えた方法に自分の工夫をまじえてはならぬのだ。無心でおれ。
こう語ってから、私は竿と糸、鈎などの支度を整えてやった。女の子に、長竿は禁物である。四間一尺五寸の竿から、元竿二本を抜き去って三間の長さとした。道糸は、竿の長さよりも七、八寸長くした。
この浅い瀞の釣り場は、私の目測に
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