みようということになり、いずれも小型のやせた鮎を四、五尾ずつ釣った。その帰途、岩淵駅で下車し富士川橋の宿へ帰る道中で、私は大怪我を負った。ちょうど、野間清治の別邸の前である。私は夕闇の東海道を西から東へ歩いて行くと、暗の中から自転車が恐ろしい速力で走ってきて私に衝突した。私は路上へ突き倒されると、横になった私の体躯の上へ、人間が乗ったまま自転車が、もろに倒れ覆うたのである。
倒れると同時に、身体全体に痛みを感じたが、起き上がろうとすると右足が自由にならない。夕暗をすかしてみると、脛《すね》の正面の稜骨《りょうこつ》の右側の間に、嬰児《ようじ》の口よりも、もっと大きな口が開いている。自転車のどこかに付いている金の棒が、やわらかい肉に突きささり、そして掻き割いたらしい。
八
すぐ東京へ帰って医者の治療を受けた。医者は、全治するまで絶対に水に入ってはならぬという。
十日ばかり、東京に辛抱していたけれど、辛抱がならぬ。鮎の姿が、ちらちら眼の前を泳ぎまわって、追っても払っても、敏捷な姿を現わす。
娘を、看護婦代わりにして、医者から貰った膏薬《こうやく》や繃帯を携えて、跛《びっこ
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