寺が引受、つまり保証人となった。当時、こんな証文が殿様から寺へ入っているのを知ったら、庄内領の百姓は何と思ったであろう。
 こんな訳で、別当のところへは驚くべきほど沢山の利息が入ってきた。ちょっと利息帳を繙《ひもと》いてみたところ、正月から盆までの間に金六千百九十一両という莫大な利息が記入してある。当時の六千両を現在の金の価値に引き直したらいかほどになるであろうか。別当の背後には、将軍家がついているのであるから貸した金を借り逃げされるようなことは決してない。瑞蓮寺の懐は肥るばかりであった。

     古典の滋味

 こうして諸侯へ貸しつけた箪笥に二棹の証書を精算したら恐ろしい額に達するのであろうが、これが維新の布令が出ると同時に悉くフイとなったのであるから、別当では気も遠くなるばかり驚いたに違いない。霊廟のお守りをする別当においてさえこの通りである。さらに、ゆっくりと霊廟を拝観し、珍しい宝物、隠れた話などに注意を払ったなら半歳や一年は三緑山へ日参せずばならないであろうとおもう。
 秀忠と崇源院の二廟の建立に費やした金泥、七宝、漆、朱、玉、絵の具。また金具、木材、基礎材料、工賃だけでも
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