付けのうち、最も興味を惹いたのは、諸侯から入れた借金証書である。それが、箪笥《たんす》二棹に、ぎっしり一杯詰まっている。これを分類したら、よほど面白いものができあがるに違いない。試みに、一掴みの証書を取りあげて開いて見たら、そのうちに肥前唐津藩小笠原佐渡守から入れた金三百両の借用証書があった。これは小笠原長生将軍の先祖である。一城の主が、僅か三百両の金を寺から借りていることを思って、徐ろに微笑を禁じ得なかったのであった。

     藩侯の借金

 さらに、次へ繙《ひもと》いて行くと、三千両が庄内藩主酒井左衛門尉。百五十両が小笠原石見守。三百両が高梁藩主板倉伊賀守。金一百両が上田城主松平伊賀守。三百両が牧野伊勢守など。次から次へ読んで行けば、殆ど際限がないありさまである。
 庄内藩主酒井左衛門尉が金三千両を借用するために入れた証書の文句は、まことに厳重を極めている。金のためには、藩侯もペコペコものであった。

   預申金子之件
 一金三千両也 但通用金
 右者其御山御霊屋御年番御用御年金之内今般酒井左衛門尉就公務要用預被申候処実証也返済之儀者来辰三月三十日限り元金百両に付銀六十皿之利
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