枚の使用料をとられるのであるから、金持ち候補でなければ手が出せないのである。いかにも派手好みの頼母木が企てそうなことだ。
 大隈伯が、応援演説にでれば当選はきまっている。頼母木が当選するのは我が党人であるからそれはよろしいとしても、頼母木が無暗に票を浚っていけば自分が危なくなる恐れがある。してみると、伯の応援演説は極力阻止せねばならない。三木は狼狽したり、激昂したりした。
 伯は、公平であるから誰に味方しようというわけではない。自党の候補者が一人でも多く当選すれば満足なのである。ところが、伯爵邸は二派に分かれていた。奥方派と、玄関派に分かれて対立したのだ。奥方派は選挙がはじまると直ぐ伯爵夫人が総指揮となって頼母木桂吉を応援し、玄関派は伯爵の執事が大将となって三木武吉を声援したのである。
 しかし、何としても奥方派の方には分がある。当時は候補者の戸別訪問が許されていたのであるから、候補者のお供をして歩く職人や若い者に、伯爵家から名入りの印|絆纒《ばんてん》をだして着せ、その上に伯爵の候補者推薦名刺には、大隈という認印まで捺《お》してある。
 だが、玄関派は無産党であるから印絆纒などだす訳
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