春宵因縁談
佐藤垢石
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)強《し》いて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)印|絆纒《ばんてん》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
−−
はなしのはじめは三木武吉と頼母木桂吉の心臓の出来あんばいから語りだすことにしよう。
このほど、頼母木東京市長が急逝した。私としては、この人の死をきいて別段深く感慨にうたれたというわけではないが、ただ頼母木が持っていた心臓の強弱については、二、三の思い出があるのである。頼母木の心臓は、強《し》いて形容するよりも、しぶとい心臓と言った方が当たっているかも知れない。
彼は備後国府中の生まれで、少年のころ東京へでてきてから当時報知新聞の編集局長であった熊田葦城の書生となった。その熊田老がこの二月中旬に、鎌倉材木座の寓居で他界すると、僅かに一週間たつかたたぬかのうち、頼母木もそのあとを追ったのは、前世の約束であったのであろうか、不思議な縁である。
いまごろ、この二幽人は三途の川の土手あたりで久濶を叙しながら、互いに微苦笑を
次へ
全16ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング