談笑に暖かい春風が訪れたのである。その夜、私は家へ帰ってから、
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春の川 曙うつし 流れけり
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こんな俳句みたいなものを作って、ひとりで喜んだ。
笑って貰っては困る。いまもなお、報知新聞社は丸の内の一角に、毅然として栄華を示しているけれど、往年全国の読書界を風靡《ふうび》した時代に比べれば、いささか下り坂だけは争えない。社の古い関係者が、この姿を見て誰か嘆かぬものがあろうか。そこへ、社の古い有力な関係者が現われてきて、自分の光栄ある死華のために主家の再興に努力専念するというのであるから、報知新聞黄金時代の再来を夢みるのが当然である。
古い関係者は、それぞれ社会に立って活動はしているが、旧い主家の左前は寂しい。故郷の村に住んでいた年月よりも、有楽町の土を踏んでいた歳月の方が比較にもならないほど長い連中ばかりであるから、なんで主家の凋落を喜ぶ者があろう。頼母木の悲壮な決意にこぞって随喜の涙を流した。
そこで私は、心豊かな気持ちとなり四月の上旬、将棋の名人木村義雄と二人で、朝鮮旅行に赴いて、二十日すぎに帰京してみると、飛んでもない話をきか
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