る君はつとに知っているはずだ』
と、頼母木に言ったから、頼母木は、
『うう』
と、唸って一言もない。江木は、非勢の三木を大いに贔屓《ひいき》にしていたのである。ところで、伯の執事がさらに口を添えて、
『私は、伯爵の大切のからだを預かっている責任者です。いま歌舞伎座が大混乱に陥っているという話をきいたが、そんなところへ乗り込んで、伯爵のからだに万一のことでもあったら、国家に対して申しわけがない。頼母木、三木両派が握手して演説会場を鎮《しづ》まらせぬうちは、総理大臣を案内することはできません』
と、やって大いに玄関派の真価を発揮したので、とうとう頼母木は往生してしまった。
大隈が歌舞伎座へ乗り込むと、既に両派の妥協がついていたから、場内は静粛である。総理大臣は拍手に迎えられ、隻脚をひいて壇上に立ち、日本の現状と世界の大勢に論及し、最後に、
『わが輩の友人頼母木、三木両君に一票を投ずるを希望してやまない所以《ゆえん》であるんである』
と、結んだ。
三木は、伯のうしろの椅子でほくそ笑んだ。伯の演説が終わると直ぐ、頼母木は伯にお礼の挨拶をしているのをみて、三木は、
――この、すきに
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