いよう張り番している。そこへ、歌舞伎座から注進があって、いま三木派の者がやってきて勝手に立看板を立てたり演壇の近くへ大きなビラを下げたりして大混乱をはじめている。愚図々々していると、せっかく準備した会場がどうなるか分からないから、早く総理大臣にきて頂いて、演説を済まして貰いたい、と言うのである。すると、三木がその使者に、
『君たちは知るまいが、こん夜はわが輩と頼母木とを並べておいて総理大臣が演説することになっているのだ。わが輩の立看板を倒したりビラを破ったりすれば、こん夜の演説はやめにする』
『そんなわけはない』
『あるかないか、お前達は知らんことだ。四の五の言えば、総理大臣は歌舞伎座へはやらないことにするぞっ!』
そこへ、さらに続いて櫛の歯をひくように総理大臣の出動を催促する使者が次々にくる。けれども、官邸の玄関口でやっている押し問答は総理大臣室へは通じないから大隈は平然としている。そこへ堪りかねて頼母木が飛びつけて、伯に行き違いのことを尋ねると、そこに折りよく内閣書記官長の江木翼も居合わせて、
『総理大臣が、一人の候補者にのみ推薦演説をするというのは条理がたたないのは、政党人であ
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