っていては、もう何処《どこ》だって[#「何処《どこ》だって」は底本では「何処《どこ》だつて」]演説会場を貸すところなどありません。ですから、今夜頼母木と一緒に歌舞伎座で私の推薦演説をやってください。それができんとすれば、こん夜の頼母木の推薦演説はやめてください』
『そうか。じゃが今夜の頼母木の推薦演説をやめるちうことはでけん。やむを得んから、貴公も今夜共に推薦することにしよう』
『ありがたい。うそではありませんな』
『わしは、二枚舌は使わん』
三木は、横っ飛びに自分の選挙事務所へ飛んで帰った。もう、夕暮れである。参謀の者を集めて伯爵との談判の次第を語り、直ぐ腕強の者五、六人を歌舞伎座へ送り、玄関前へ内閣総理大臣推薦の頼母木桂吉の立看板と並べて『憲政会候補者三木武吉』の立看板を立てさせてしまった。これを見て頼母木派では、びっくりしたり憤慨したりした。両派の、十数人のものがこの立看板を取り囲んで、
『ぶっくじけっ!』
『命にかけても手はふれさせん』
などと、大した騒動がはじまった。
一方、三木は早稲田の伯爵邸から大隈の自動車に便乗して、総理大臣官邸へ行き、頼母木派に大隈を奪い去られな
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