祖伝来の通力を心得ている上に、ちかごろは人間さまと深く交際しているのだから、この山中の連中とは、大いに風采も変わってくるだろう。それで今日は貴公に報告して、喜んで貰いたいことができたので、わさわざ学校を休んでやってきた。
 はてな。
 というのは、このごろわが輩に恋人ができたんだ。
 そうか、それは珍重、してみると、賑やかな厩橋の城下の真ん中にも、狸の雌が棲んでいるらしいの?
 いやいや、狸じゃない人間さまの雌だ。
 さようか、その筈だ。おれはこの二、三日夢みが悪いが、さてはそれだな。
 夢みが悪いとは異なことをいうけれど、相手はぞっこんわが輩を慕っているのだ。もう幾千代かけての契りまで結んだのだ。
 鼻毛が長いぞ。
 これでわが輩の長い間のもくろみも、その意を達する機会が到来したわけだが、兄弟喜んじゃくれまいかね。
 まあ、結構だろう。だがね、随分用心してくれ、相手は人間だ。
 わが輩の手腕力量を信用してくれ。
 以上、友※[#「豸+權のつくり」、第4水準2−89−10]に相談したところ、敢て強く反対するほどでもなかったので、厩橋の下宿へ戻り小みどりの母へ縁談を持ち込んだ。
 母は、
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